川崎市の脳神経外科・脳神経内科



しんゆり脳神経外科クリニック
神奈川県川崎市麻生区上麻生4-35-5
TEL:044-953-3000

--- 院長コラム ---

前頭葉の機能と前頭側頭型認知症

人類は進化の過程で大脳皮質を著しく増大させました。その中で特に発達したのが前頭葉です。前頭葉は思考、創造をする脳と言われています。抽象的な思考をおこなうほかに、注意を向け集中する機能、物事を計画し複雑な課題を実行する機能、感情をコントロールし衝動を抑える機能、社会的な状況を理解し適切な行動をとる(いわゆる空気を読む)機能なども担っています。認知症の一つである前頭側頭葉型認知症(特に行動障害型)ではこれらの機能に障害が出てきます。具体的には無関心になり、途中で物事を放り出したりします。社交性が低下して自己中心的な行動が多くなり、傍若無人な印象を与えます。また行動が単調になり日々同じこと繰り返す傾向があり、倫理感に無頓着になったりします。ただ初期には物忘れは目立ちません。タウ蛋白、TDP-43などの異常タンパクが脳に蓄積するのが原因だとわかっています。


レビー小体型認知症について

物忘れや能力低下が気になる人で、寝ている間に大声を出したり激しく手足を動かしたりすることはありませんか?
また人影や虫が見えるような錯覚、体が動かしづらくなり歩行が遅くなるなどの症状があればレビー小体型認知症の可能性があります。

もうひとつの特徴は認知症状の良い時と悪い時の差が激しいことです。この病気はαシヌクレインという異常タンパクが脳に溜まり「レビー小体」を形成して引き起こされることがわかっています。αシヌクレインは嗅神経や自律神経系にも蓄積するため、においの感じにくさ、便秘、立ちくらみなどを伴うことも多いです。診断には問診、MRI、認知機能検査のほか脳血流検査、ドーパミン神経の異常を調べる検査などを行います。アルツハイマー型認知症とは違った治療やケアが必要になり、生活の質をよくするためにも早めの診断が重要です。


開業一周年を迎えて

2023年12月にクリニック開業一周年を迎えました。

この一年間に多くの方々にご来院いただき心より感謝しております。

当初は不慣れな面がありましたが、数多くの出会い、学びの中で成長することができ、私なりに満足しうる診療ができたことを大変嬉しく思っております。

これからも皆様との信頼関係をより一層深め、質の高い医療を提供して、地域社会に貢献できるよう頑張っていきたいと思います。

どうぞよろしくお願い申し上げます。


認知症は異常タンパク蓄積病(2024/3/14)

昨年末に新しい認知症の薬が登場し話題となりました。認知症の進行を防ぐために脳内に溜まったアミロイドβという異常なタンパクを取り除く薬です。治療は2週間ごとに点滴を行い、1年半継続します。認知症の中で最も多いアルツハイマー病はこのアミロイドβが徐々に脳内に蓄積して発症する病気です。実はアミロイドβの蓄積は発症の20年くらい前から始まっています。蓄積量が多くなってくるとリン酸化タウという別の異常タンパクも増えてきて神経細胞を傷つけ死なせてしまいます。これが重なっていくことで認知症を発症してしまうのです。ですから神経細胞に余裕のある初期のうちに薬を使用する必要があります。認知症の中にはアミロイドβとは異なったタンパクが蓄積するレビー小体型認知症や前頭側頭葉型認知症があります。また脳梗塞などが原因となる脳血管性認知症も含まれるため、薬を使用するためにはアミロイドβが原因となっているという専門的診断をしなければなりません。副作用をしっかり監視できるシステムも必要で、まだ治療できる医療機関は限られています。このように現状ではハードルが少し高いと言わざるを得ませんが、今後だんだん普及していくことが期待されています。アミロイドβの蓄積に影響を与えるものとして、糖尿病、高血圧などの生活習慣病、運動習慣、睡眠、繰り返す頭部外傷などが関係することがわかっています。これらに注意して健康に過ごすことが大切です。認知症が気になった際には早めに医師の診察を受けるのがおすすめです。


冬と脳卒中(2023/12/30)

日ごとに寒さが厳しくなり、いよいよ本格的な冬を迎えました。冬に気を付けなければいけない病気は数多くありますが、脳卒中もその一つです。脳卒中の中では脳出血とクモ膜下出血が冬場に多くなります。一方、脳梗塞は、発生数はあまり変わらないものの、重症になりやすい高齢者や心臓が原因となる脳梗塞を起こす人の割合が増えるのが特徴です。これは、寒さによる血管収縮で血圧が上昇することが一因です。温度差が激しいと、急激な血圧の上昇を起こすことがあり危険です。屋外に限らず屋内でも適切な防寒対策をとり、血圧変動を防ぎましょう。また、適度な運動・水分補給・ストレス回避なども重要です。体調管理をしっかり行い、この冬を乗り切ってください。特に高血圧や心臓疾患を持っている人はリスクが高いため、普段から血圧をチェックするのがおすすめです。脳ドックなどでリスク評価を行っておくのも良いと思います。


認知症を進めないために(2023/11/15)

認知症を進めないためにするべきことは、まずは「運動」です。運動することにより血流が増加し、脳により多くの酸素と栄養が運ばれます。また、筋肉の収縮によって生まれたある種のタンパク質(成長因子)は、脳に届いて脳由来神経栄養因子という物質を生み出します。これは記憶で重要な海馬での神経細胞の新生や成長を促し、認知機能を改善させます。さらに、運動は認知症を悪化させるフレイルや寝たきりの予防にも必須です。加えて、糖尿病や高血圧・高脂質症などの生活習慣病(これも認知症に悪影響を及ぼします)にも非常に有効です。適度な運動は良い睡眠につながります。これも重要な点で、深い睡眠時にはアミロイドβという、認知症の原因となる物質が脳の外へと排出されるのです。このように見ていくと、運動は良いことづくめですね。心地よい季節になりました。明日から外に出て体を動かしてみませんか。


物忘れ(2023/9/15)

年を取ると誰でも物忘れが多くなり、若い頃のように手際よく物事をこなせなくなるものです。ひょっとしたら自分はアルツハイマー病なのではないかと心配する人も多いと思います。では、正常と異常の境はどこなのでしょうか。例えば人の名前が出てこない、物の置き忘れ、やろうと思ったことを忘れるなどはある程度仕方ありません。しかし、自分が体験した出来事をまるまる忘れてしまったり、仕事や生活にしばしば支障が出たりするような物忘れは問題です。また、片付けをしなくなったり部屋が散らかりだした、身なりに無頓着になった、意欲がなくなり趣味の活動をやめてしまうなどといったことがあれば要注意です。気になる人は早めに受診し、認知症検査、MRI、脳血流検査、血液検査などでしっかりした診断を行いましょう。早期の段階(軽度認知障害といいます)で対策を講じることにより進行を遅らせることができ、中には正常に戻る人もいます。